第七回 ママに本を読んであげよう-"Rolling Readers"の活動

By 佐々木南実

 保護者が子どもの学校のお手伝いにかり出されるのは日米共通のようで、我が家の子どもたちが通っているここサンディエゴの小学校でも、父母の協力は重要です。私も、毎週学校に顔を出し、いろいろなお手伝いをしているのですが、楽しみにしているボランティアのひとつに"Rolling Readers"(ローリング・リーダース) という活動があります。これは、父母や地域の人々などのボランティアによって支えられている全国規模のプログラムです。内容は、「子どもと一緒に本を読む」ということだけなのですが、このシンプルな活動が、子どもの本と向かい合う姿勢に与えるポジティブな影響は、大変なものです。

 まず、担任の判断で、読みの練習が必要だとされた子どもが、メンバーとなります。ボランティアは毎週教室を訪ね、子どもと一対一で、約15分間の読書セッションを持ちます。授業中でも気にせず入って行き、一人の生徒を教室の後ろに呼び出して、セッションが始まります。本は、子どもの読書のレベルに合わせてボランティアが図書館などで入手します。そして、子どもが音読してくれるのを聞き、その様子を日誌に記録します。目的は教えることではなく、あくまでも「音読に耳を貸す」ことです。上手に聞くコツは、 わからない単語でつまったり、
読み間違えても、すぐに教えたり、直したりしないこと。そして、 とにかく褒めちぎること! です。

 私がいつも最初に呼ぶのは、J くんという一年生の男の子です。彼は特に落ち着きがなく、集中していられる時間が短いので、朝一番の元気なときにつかまえたいのです。頭の良さを勉強にむける気がなく、本を読むときも物語に興味を持たず、早く終われとばかりにどんどん進みます。ほかのボランティアの記述を見ても、「やる気がない」「指示に従わない」などの言葉が並んでいます。限られた言葉で構成された単調で、幼稚な初級の本が、彼には退屈でならないのです。一体どんな本なら、興味を持ってくれるのだろうと考えていました。ところがある日突然、25ページほどの本を彼が一気に読み切りました!それも、投げやりないつもの態度ではなく、この先はどうなるんだろうという興味に引っぱられて、思わず最後まで読んでしまったという様子でした。ついに彼の「読み」のレベルが、「興味」のレベルに追いついた瞬間だったのです。

 小学校低学年までの読書は読む技術を身につけるための練習という意味が大きく、いったん基礎的な語学力が身に付いた中・高学年以降は「学ぶため・楽しむため」という、活字を追う技術の一歩先にあるものを求めることができるようになります。そのために、9歳までに完璧に「読める子ども」を育てることが、アメリカでは国レベルでの目標ともされています。国レベルの政策を州、郡というそれぞれのレベルで支え、さらにそれを支える草の根的な活動が市民自身の中から生まれているという、アメリカの典型的なボランティア活動の一例が、この"Rolling Readers"です。

 情報量としては、音声によるそれの何千倍もが、活字には用意されています。いろいろな時代、分野、場所。驚きや感動。それがbook shopというひとつの場所で手にすることができるのだとすれば、英語で書かれた本をワクワクしながら読めるようになることも、話ができることと同じくらい素敵なことですよね。

 「なんで今日はそんなに上手に読めちゃったの?」と聞いた私に、"I don't know." と答えたJ くんは、いつものさめた表情に戻っていましたが、やはりどこか満足げでした。こんな地道な読書の積み重ねで、彼のような子どもたちが「本もまんざら悪くないな」と思ってくれれば、これほど嬉しいことはありません。と言いながらも、自分の子どもに対しては、この15分の読書時間を取るのが大変だったりします。明日こそ、子どもに本を読んでもおう。皆さんも、お試しください。

(初出: アルク刊 "kids com" 2001年7月号)

 

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