第八回 貧乏旅行で世界を回ったアメリカ人

By 佐々木南実

 21才の時にヨーロッパを旅行したのを皮切りに、結婚して子供が生まれてからも毎年世界各地を旅し、今や地球上に訪ねたことのない国はないというのは、アメリカ人のダーリーンさんです。

 若き日のダーリーンさんを外国へと駆り立てたのは、アメリカで自分が受けてきた「アメリカ至上主義」の教育への疑問でした。「"アメリカはBiggest","アメリカはBest"と教えられてきたけれど、本当に世界の構造はそうなのだろうか。そんなはずはない、と思い始めてから外国の文化や政治にとても興味を持つようになったの。」

 外国で暮らす人々の生活を自分の目で見てみたくて、「こんな貧乏旅行はもういやだ!」と子供たちに文句を言われながらも、南ア、東欧、中東、アジアと、次々と回り、できる限り地元の人たちの生活に触れようとしてきた
ダーリーンさん一家。夫婦共に教師という職業のおかげで、毎年家族で長い夏休みを過ごすことができました。
「主人のお給料は生活費、私のお給料はすべて旅費に消えていったのよ。」と笑います。両親の「貧乏旅行」に
付き合わされて大きくなった二人の子供たちは、インドの舞踏家や、オランダの農夫の一家と生活をともにしたり、日本とオーストラリアでは地元の小学校に入学したりもしました。そんな経験を通して、子供たちが感じ取ったことは、異国は違うということよりも、むしろ人間は同じだということだったようだとダーリーンさんは観察しています。生活習慣の違いに何度もびっくりしながらも、そのもう一歩先の「人間自身」を見る目を養っていったのではないかというのです。

 まったく初めて行く外国でも、ものおじしたことは一度もないという積極派のダーリーンさんですが、外国語のセンスは全くないのだと自認しています。外国で地元の人に道を尋ねたりするときに一番最初に出る言葉は、やはり、"Do you speak English?" なのだそうで、たいていの場合は誰かがそれに応えてくれる、それがダメな場合は身振り手振りなのだそうです。自分の母語が世界で一番広く使用されている言語であることに多少の罪悪感のようなものを感じると言いながらも、やはり英語が話せなかったら、こんな生き方はしてこれなかっただろう、という彼女は、私たちと同じように世界への鍵として英語という言語を利用しているひとりなのです。むしろ、英語だけしか話せない彼女だからこそ、英語の威力の強さを身に浸みて感じているのかもしれません。「英語は世界中で通じる」という彼女の言葉には、実感がこもっています。

 ですから、日本の子供たちが英語を学ぶのはとてもいいことだと思うと彼女は言います。「机上の勉強もいいけれど、英語を母語とする人と接触する機会を持つことが子供にとっては一番の勉強だと思うから、転勤族の奥さんや、基地の奥さんや子供たちに呼びかけて、ボランティアで集まる交流団体みたいなものを作ったらどうかしら」と、アドバイスもどんどん出てきます。確かに、「ボランティア」という概念に日本人は慣れていないというか、そのために身近にいるネイティブ・スピーカーを上手く利用しきれていない部分もあるのかもしれないな、とこの話を聞いていて思いました。「アルバイトという意味なんかじゃなく、地域に貢献したいと思っている外国人は日本にも多いはずよ。積極的に声をかけてみて。」と彼女は言います。ダーリーンさん夫妻のように、子供たちを実際に世界各地に連れて行くことはなかなかできなくても、世界にむけて開かれている柔軟な気持ちさえ持ち合わせていれば、身近な所から子供たちに「世界」を見せてあげることができるのかもしれません。

 ダーリーンさんは今でも大学でいろいろな講義を受講中です。「子育て頑張って!」と私の肩をたたいて次の授業へと急いで行く彼女を見送って、先輩ママから力強いエールをもらった気持ちになりました。

(初出: アルク刊 "kids com" 2001年8月号)

 

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