By 佐々木南実
忠臣蔵が大好きで、鎖国から明治の日本史が現代の日本人のアイデンティティーの構築に大きく一役買っていると分析し、天照大神などについて書かれた本を読むのが楽しくてたまらないノ.
そんなアメリカ人、バーバラさんと今日はお話ししました。
日本人もびっくりするほどの「日本通」のバーバラさんなのですが、彼女の日本研究は全くの趣味、自分の好奇心を満たすためだけと言うから、なおさら驚きです。もともと美術を専攻していたバーバラさんは、漢字というものを初めて見たとき、その形の美しさに大変惹かれ、そんな彼女にご主人が贈ってくれたのが「漢英辞典」でした。その後、ひらがな、カタカナというものの存在を知ったことが、日本への興味をさらにかき立てました。中国伝来の漢字を自国の文化に取り込み、見事に消化した「日本語」というものにすっかり魅了されてしまったのです。とはいうものの、日本語の勉強は難しく、日本語を話したり、読んだりできるようになるという夢は、とうにあきらめてしまったのだそうです。英語で書かれた本から、日本史や日本文化について学んできました。
日本文化は、欧米はもちろん、アジアの中でも、どの国とも似ていない、大変ユニークなものだとバーバラさんは思っています。そして、その核となっているのは、狭い国土に多くの人々が密集して生きるために生まれた自然の知恵であるモunityモの概念ではないかと彼女は分析します。このモunityモ
というのは、「和」の英訳です。このようにバーバラさんは、自国の文化の中には存在しない概念を、英語の書物を通して、あるいは英語を解する日本人の友人たちから吸収し、理解しようとしています。
義理 = obligation、人情 = friendship、恩 = loyalty 等という訳語が使われますが、こうした抽象名詞はそれぞれの民族の歴史文化に深く根を下ろしている言葉なので、なんとなく似ているようでいて別物です。ですから、この補足として歴史を学ぶのは大変理にかなっているといえますね(でも私は、もう少しそれらの“機微”を教えたいな、と思ってはいるんですが。)
40年以上ものあいだ、英語をツールとして日本という異文化と付き合ってきたバーバラさんですが、どんなに文化や歴史に対する理解が深まり、知識が増えても、日本が彼女にとって「外国」であることは、もちろん、変わりません。そんな彼女が言う、未知の外国や外国の人々と上手に付き合うコツとは、「自分の文化をしっかりと意識したうえで、文化や習慣の違いに対応できる柔軟性を持っていること」です。
たとえば、日本人留学生がアメリカにやってきて、アメリカ人に生活のあらゆる面で親切に面倒を見てもらいます。ところが、留学生がアメリカに慣れ、生活が軌道に乗ると、その人とはまったく連絡が取れなくなってしまう。「せっかく友だちになれたのに」と、留学生はがっかりしますが、アメリカ人にとって「親切にする(courtesy)」と「友だちになる(friendship)」ことはまったくかけ離れた意識なのです。ボランティアや慈善活動の盛んな様子を見てもわかるように、アメリカ人は、自分のできる範囲で他人に親切にすることに関しては大変オープンで、積極的です。しかし、「知人(acquaintance)」と「友人(friend)」の違いは大きく、友情は時間をかけて公平な立場で築いて行くものという、はっきりとした意識の違いがあるというわけです。また、「外国人と会う」というひとつの状況をとってみても、その人の国で会うか、自分の国で会うかによって、お互いの態度や気分はまったく違うので、びっくりはしても、がっかりはしないというようないうなれば精神的な強さが異文化との付き合いにおいては必要だとバーバラさんは言うのです。
現在、地域のお年寄りを対象とした生涯学習プログラムの中で講師を務めているバーバラさんですが、日本や日本人について、ほとんどなんの興味も知識もないアメリカのお年寄りに、日本を紹介するときに彼女が使う最初の話題は、「義理・人情」の説明です。ちょっと高度すぎる導入なのでは?と思いますが、これを押さえておかないと、日本史のどの部分も語ることができないのだそうです。
知的好奇心に駆り立てられるまま、遠い異国の歴史・文化を追い続けてきたバーバラさん。「まだまだ勉強したいことはいっぱい!」と笑う彼女のエネルギーも、まさに生きたアメリカ文化です。日本通のアメリカ人と出会い、異文化に素手で触れることのできた気分を味わうと同時に、海の反対側から見る母国日本に、なんだか不思議な思いでした。
(初出: アルク刊 "kids com" 2001年10月号)
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