第十二回(最終回) 好きなことをもっと好きになるために

By 佐々木南実

 クリスマスが近づいてくると、テレビの子供番組がスペシャル版続きになるというのは、日本でも、ここアメリカでも、同じ現象です。おなじみのキャラクターたちがクリスマスにちなんでいろいろなことをしますが、日頃から思いを寄せているガールフレンド、ボーイフレンドから「キス」のプレゼントをもらおうと、意中の人をミスルトゥの下におびき出す作戦を考えるというエピソードが、必ずといっていいほど出てきます。ミスルトゥというのは、玄関の上などに飾られるヤドリギの葉っぱをあしらったクリスマスの飾りで、古代ゲルマンからスカンジナビアにかけて広がる言い伝えでは、ミスルトゥの宿っている木の下で出会った敵同士は、たとえ戦いの最中でも、戦いを止め、互いにキスし、仲直りをしなければならないことになっていました。さらにロマンティックな風習としては、ミスルトゥの下で口付けを交わした男女は結婚しなければならない、もしくは、ミスルトゥの下で出会った男女は口付けを交わさなければならないという風習もあり、それが現代でも生きているわけです。「キス」が日常の挨拶として定着しない日本には、輸入されようのない習わしなので、我が家の二人の子供たちも、アメリカにきて初めてこのトラディションを知りました。

 学校で子供たちのクリスマス・ソング・コンサートが行われるのもこの時期です。今年の一年生が歌ったのは"I saw mommy kissing Santa Claus"。日本でも「ママがサンタにキッスした」という邦題でおなじみの曲ですが、実はこの曲の「日本語版」と英語版オリジナルの歌詞には、重大な違いがあるのです。それは、最後の部分、日本語版では「そのサンタはパパ」となっていますが、元の歌詞は
"Oh what a hoot it would had been, if daddy had only seen mommy kissing Santa Claus last night" で、和訳すれば「パパが見たら腰を抜かしてたに違いないよ、だってママがサンタにキスしてたんだから!」というものです。サンタの訪問になんの疑問も持たない子供の心と、サンタといえどもパパ以外の男性にママがキスする
なんて、これはパパに見せたら大問題だ!というおませなところが同居しているところが、言ってみればこの歌全体の「ミソ」なわけで、日本語版ではこの部分が残念ながら完全に失われてしまっているのです。

 字数の関係とはいえ、これは大変残念なことだ! なんて、子供たちを前に力説していると、「だけど、ホントにママはなんでサンタにキスなんかしたんだろう?」とうちの息子。その疑問は、娘が瞬時に解決してくれました:「ミスルトゥの下にいたからだよ!」 そうなんだよね! そう考えれば、すべて解決するよね! だけど、それを説明するだけの日本語を、メロディーにのせるなんてとてもムリ。英語の文化を英語で楽しむことのできる幸せを痛感してしまうのは、こんなときです。

 言語は文化への扉を開く鍵です。我々親子は、毎日の暮らしの中で、そのことを実感しています。
私は自分の体験から断言することができますが、英語がわかると、人生の楽しみが何倍にもふくらむのです。
「なんで英語やるの?」と聞かれたら、私なら迷わずこう答えます。「英語をやれば、キミが好きなことがもっと好きになれるからよ」と。テストでいい点を取るためなんかじゃなく、映画を見て、歌を聴いて、本を読んで、誰かと出会って、一度でも多く笑えるように、一粒でも多く涙を流せるように、そのために英語をやってみるんです。「なんで?」の答えは、一人ひとりに必ず見つかるはずなんですから!

(初出: アルク刊 "kids com" 2001年12月号)

 

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