By 佐々木南実
通訳・翻訳という仕事が、私は好きです!仕事を通して、思いもよらない人と出会う機会に恵まれたり、この仕事をしていなければ絶対に知ることのなかったであろう世界を,
垣間見たりすることができるからです。それ以上に、言葉を取り扱う仕事に就いている者としての最大の喜びは、絶対に機械には取って代わることのできない微妙な仕事をしていると実感できる瞬間です。そこはもう、「語学力」などというモノサシでは計りきれない、ほとんど野性的な「言葉に対する直感」が求められる世界です。どんなにコンピューターの技術が進んでも、「翻訳ソフト」などというものには決して負ける気がしないのは、そのためです。そして、その「直感」を支えてくれるのは、自分のボキャブラリーにほかなりません。いつ、どんなクライアントから、どんなプロジェクトが飛び込んでくるか、まったく予想も付かないフリーランスの通訳・翻訳者にとって、ボキャブラリーの豊富さは、命綱です。常に、さまざまな業界のジャーゴンやテクニカル・タームも含めて、可能な限り多面的に、最新のものを取り込んでおかなくてはなりません。そんな我々にとって、常に注目しておきたいもののひとつが、スラング・ランゲージです。ストリートで、ビーチで、キャンパスで、オフィスで、日々生まれ、変化して行くスラング。どんな状況で、誰が誰に向かって言った言葉なのかによって、微妙に意味が変化してくるこれらの言葉は、翻訳・通訳者にとって、頭痛の種であると同時に、興味津々の分野です。
このコーナーでは、エンタティメント通訳十数年の経験を持つ私が、カリフォルニア在住という「地の利」を活かして、さまざまなシーンで飛び交うアメリカン・スラングをリアル・タイムでレポートして行きます。それらの言葉を通して、現代のアメリカ人のライフ・シーンのスナップ・ショットをお届けできればいいなと思っています。
◆会話の景気づけ、若者会話に頻繁に登場するMan,
dude
仲間同士の気楽な会話、いわゆる「ため口」の英会話において、言葉の間に「man」を挟む話し方は、もともとは黒人系ストリート・ランゲージ、あるいは60年代ヒッピー系・ランゲージから発生したものと考えられます。これと同等に使われる言葉「dude」は、もともとは西海岸サーファー系スラングでしたが、現在ではどちらも一般の日常会話に完全に定着し、私の娘の通う小学校1年生のクラスでも、先生を含め、全員が使っています。男女別では、やはり男性のほうが使用頻度が高いようですが、女性も使います。女の子が「男言葉」を使うときもある、そしていつも男っぽい言葉遣いをしている女の子もいる、という感じの割合です。
道で友だちとばったり会った場合 :
A: Yo, man. (おっす)
B: Hey, man, what’s up dude.
(おー、なにしてんの)
A: Nothin’ much man. (べつに)
B: Cool man. (ふーん)
A: Check ya later man. (じゃーまたね)
B: Yeah man, cool man.
(じゃーね)
日本人の女の子同士の会話を聞いていると「ねえ」しか耳に残らない、と言っていたブラジル人の友だちがいましたが、「man」「dude」もちょうどそんな感じで、会話の中にたっぷりと散りばめられます。
◆英語にもあるんだ!「てゆ〜か」
そして、最近特に耳につ付くのが「like」。日本語の「みたいな」「てゆーか」あるいは「語尾あげ」に相当するものです。
かっこいい男の子を見つけた女の子が、その時の話を女友達にしている
:
A: Like
I saw him standing there, and it was like,
wow!
(てゆーか、なんか、いきなりその人そこに立ってて、超タイプなんだけど、 みたいな)
B: Like, man, I really gotta meet this
guy? (もう絶対知り合いたい! みたいな?)
A: Like, yeah! (そうそう)
B: And did you like, walk up to him?
(で、話しかけた?)
A: Well I was like, thinking like,
you know this is the last chance and all but, like,
you
know, I just couldn’t!
(てゆーか、もうこれが最後のチャンスだぞ、みたいに、超思ったんだけど、てゆーか無理?)
B: Well L.O.L. (*1)!
And you mean it was like, you just let
him go?
(ちょっとなにそれ、大笑いじゃん。てゆーか、あっさり見送っちゃった、みたいな?)
Remarksモ |
*1:
L.O.L. (Laugh Out Loud) = 中高生女の子のメール言葉から発生。「大笑い」「超おかしい」。会話の中で使うときには
「エル・オー・ エル」とは言わず、laugh out loudと言います。 |
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上の例文は、女の子の会話ですが、「like」は男女、年齢を問わず、かなり広く使用されています。「みたいな」や「語尾あげ」同様に、耳についてちょっと気になる言葉ですが、私もいつの間にか使っています。
上の例文を男の子バージョンにしてみると、こんな感じになります :
A: Like I saw
that dime (*2) standing there,
and it was like, wow!
(てゆーか、なんか、いきなりすっげ
えイケてる?んだけど、みたいな? そこに立ってて、 もろ超タイプ?
なんだけど、みたいな)
B: Like, man, I really gotta freakin’
(*3) meet this chick?
(もう絶対知り合いたい! みたいな?)
A: Like, yeah! (そうそう)
B: And did you like, walk up to her?
(で、話しかけた?)
A: Well I was like, thinking like,
you know this is the last fucking (*3)
chance and all
but, like, you know, I just couldn’t!
(てゆーか、もうこれが最後のチャンスだろーが、みたいに、超思ったんだけど、てゆーか無理?)
B: Well L.O.L. ! And you mean it was like,
you just let her go?
(ちょっとなんだよなにそれ、爆笑モン大笑いじゃん。てゆーか、あっさり見送っちゃった、 みたいな?)
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Remarksモ |
*2:
dime = 男の子同士の会話で、女の子を高く評価する場合の「いい女」。気心の知れた女友達なら、面と向かって「whoa,
you a dime baby」(Oh, you look very nice today)と言っても、言われた女の子は素直に喜ぶとい
うことなので、(なんか今日は イケてるじゃん)という感じのニュアンスと解釈します。知らない女の人に 向かって言うと、下品な印象です。
*3: freakin’, fuckin’ = 男言葉に多用される「接頭詞」。特に深い意味はありません。「freakin’
tired man」 (「もう超つかれた」)「fuckin’
good man」(「これ超よくない?」= 平板化の「よくない?」で、大変よいという意味) など、manとの組み合
わせで乱用されている場合が多いです。 |
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上記三種ほどは氾濫していないけれど、黒人ストリート系スラングから次第に一般に普及しつつあるが「word」です。「yeah」に相当する言葉で、「否定ではない」という意味以外には特に意味はありません。日本語では相づちの「うん、うん」や「そーなのよ」などに相当するものです。白人サラリーマンや主婦が使っているのは聞いたことがありませんが、黒人ならば、アーティストやギャングではなくても、サラリーマンも使っています。
たとえば、友達に電話をかけている若者の場合:
Yo dude, it’s me man, Johnny. Word.
Just chillin’ man. Cool man. Word.
(もしもし、あ、俺、ジョニーだけど。そう。うん、何もないよ。まったりしてるだけ。)
以上、今回は、スラングから一般に普及してきている「ため口」言葉を少し見てみました。次回からは、「ラッパー系」「ギャル系」「シリコンバレー系」等々、狭く深い世界にまで入り込んで、レポートして行きたいと思います。おたのしみに!
(初出: イカロス出版刊 「通訳・翻訳ジャーナル」 2001年4月号)
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