No.3 スラングの進化は日米共通

By 佐々木南実

「語尾上げ」(↑) はアメリカにも存在する(↑)

 日本で「語尾上げ」が蔓延しはじめたのは、もうどれくらい前のことになるのでしょうか? 実は、アメリカにも「語尾上げ」は存在します。イントネーションの問題なので、書き言葉では表現しにくいのですが、「I don't know.」などの断定的なコメントでも、アメリカ人のことですから、「I don't know.」と言う前に、なぜ自分がその答えを知らないのか、知らなくても当然なのはどんな事情からなのか等々、正統化・説明のコメントが長々と入ります。その過程で、徐々に「語尾上げ」が起こってきます。
 軽く問いかけるような、上がり気味のイントネーションを(↑)で表してみます。

That topic hasn't been included in the recent research(↑). and furthermore that is not my area of expertise(↑).and so therefore I do not know the answer to your question(↑).

という感じです。無意識に相手の同意をもとめているのでしょうか。言い訳に頷いて欲しいのでしょうか。いずれにしても何となく非が自分にある事を自覚していながら隠しているような状況で使われる事が多いようですが、徐々に最近では、普通の会話の中でも使用されはじめています。
 このような話し方は、特にスラングとは関係ない普通の社会人の会話の中でも、たくさん使われていますが、若者の会話の中で耳にするのは、「語尾上げ」ならぬ「文末消え」です。
 「文末消え」はカジュアルなタメ口言葉の発展形とでも言えばいいのでしょうか、こんな感じで現れます。

お父さんが、息子の試合の応援に行けなかったことを謝っています。

 父:"Sorry about not being able to come to your game yesterday."
 息子:"No big.

 
父:昨日は試合に行けなくてごめんな。
 息子:別に。

 息子のセリフ「No big」は、「No big deal」の「deal」が消えてしまったものです。
 同様に、
「He's in deep trouble.」「trouble」が消えて「He's in deep.」「I'll be back in five minutes.」の「minutes」が消えて「I'll be back in five.」など、いろいろ応用がききます。

スラングは日米同時にアップデートしよう

 一口にスラングと言っても、このように、微妙にセンテンスが変化して行く場合と、単語が独立して新しい意味を持つ場合、あるいはまったく新しい言葉が生まれている場合などがあるわけですが、現在、中・高・大学生の間で普通に使われているスラングの中でも特にポピュラーなものをご紹介しましょう。

・my bad = my mistake  私(僕)の責任
・da bomb! ("the bomb!"も同じ) 超いかす! 超かっこいい! 最高!(肯定全般の最上級)
 "That restaurant's food is da bomb, you gotta try it sometime!.
"
 「あのレストラン、ゲキやば。絶対行ってみ。」
・whacked("wacked"と綴ってもok)= unfair ひどい  
 "That's whacked, that cop gave me a ticket and I didn't even do anything."
 「なんも悪くないのに、あの警官、切符きりやがった。マジひどくねぇ?」
 "She's whacked!"
 「あの女、ずるいよ!」
・stare down  にらむ 変な目つきで見る ガンを飛ばす
・trip (動) さまざまな場面で「精神の不安定な様子」を表す。心配、緊張、考えすぎ、勘違い、単にまったくわかっていない等々。応用形として、"a bad trip"(「最悪の経験」)がある。

  バッドトリップといえば、麻薬でやばい方に行っちゃったときの常套句ですが、最近は、それだけの意味じゃないんですね。

[例文]
"like, you know what I mean? like there I was and she was like staring me down and I like didn't even do anything to her. Is that like whacked or what? She must think she's da bomb or something but she's just trippin'. It wasn't my bad"
 「てゆーか、私の言ってること、わかる? てゆーか、そこにいただけ? なのに、その子ったらなんか知らないけどスゴイガンつけてるわけ。 私、なんにもしてないのに。それって超ウザくない? なんかー、自分の事ー超可愛いって思ってるのかなんか知らないけどー、勘違いヤメロ、みないな? カンケーないじゃん、私」

 "like" は特に意味はないつなぎの言葉。「てゆーか」「みたいな」に相当する言い回しです。このように自分の発言を断定しないことによって責任回避をする、という傾向は日本の若者に限ったことではないようです。

 「大変良い」を表す「da bomb」 が出てきましたが、同義語がまだあります。

・phat(発音は"fat")= very cool 大変カッコイイ
 "That new chick in bio is phat!"
 「生物のクラスの新しい女の子、マジかわいくねぇ!?」


 これが対象が "chick" ではなく "guy" だたら、「イケメン」とでも訳したいところです。日本語のほうの「スラング」も、絶えず渋谷系などの言葉をアップデートしておかなくてはいけないということですね。

・stroked = とても喜んでいる
 "I'm really stroked about my new surfboard."
 「俺、新しいボード買っちゃって、超ゴキゲンなんだけど」

・sweet = very nice  とってもステキ
 "That's a sweet car! "
 「ステキな車ね!」

・tight = excellent   とても良い
   "The band that played at the party was totally tight!"
 「こないだのパーティーに来てたバンド、もうサイコーでしょう!」

・dope = excellent   とても良い
   "Wow, your new ride is dope!"
 「お前の新しい車、マジ最高っ!」


 また、それを強調する前位修飾詞として、"way" があります。"way cool" は "very cool" と同じです。また、肯定の意味を一言で表すのにも使います(yes と同義)。

[例文]
Aくん:"No way man, that's impossible!"
Bくん:"Way!"

Aくん:「あり得ないね。絶対にない」
Bくん:「あるんだな、それが!」

 "way five minutes ago" といえば、「超遅れてる」、「ダサイ」という意味。"way" を "so" に変えて、"Her pants are so five minutes ago" (あの子のはいてるパンツって、超ダサイじゃない)でもOK。"so twentieth century" も同じ意味です。
 この強調の"so" の使い方は、大人の普通の会話にもよく出てきます。たとえば、


 新車をぶつけられてしまったおじさんが、怒っています:
"I am so suing!"
「裁判でとことん絞ってやる!」

 映画 "American Beauty" の中でも、妻の浮気の現場を夫が押さえたその様子を見たハンバーガーショップのおばさんが "You are so busterd!" (「超バレバレよねえ」)と言っていますよね。
 強調を表す副詞としては、もうひとつ、"hella" があります。"hella cool "(超かっこよかった)、"hella far "(ゲキ遠かった)、"hella tired "(バリ疲れた)などというふうに使います。ほとんど "fuckin'" と同じ使い方ですが、こちらのほうがほんの少しお行儀がいい印象です。
 似たような意味を表現するスラング・ワードでも、結構バリエーションがあるものです
使っている本人たちは、特に「適材適所」なんて考えて使っているわけではないでしょうが、訳す側としては、微妙なニュアンスをどう分類するかが、腕の見せどころと言えそうです。
 今回は「次々とバリエーションが生まれてくる”強調”の言葉」「語尾あげによる、相手の同意の逐次確認」「文末消え、like 使用による、主張の希釈、断定の回避」という3つの話をしました。これは偶然なのか日米共通の傾向です。リアルタイムでつきあわせながらを翻訳に生かしてゆく必要がありますね!

(初出: イカロス出版刊 「通訳・翻訳ジャーナル」 2001年6月号)

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