No.5 ギャングランゲージを理解するには

By 佐々木南実

グラフィティーが読めればその地域の事情がわかる

  先月のこのコーナーで、白人の仲間になったつもりのヒスパニック系の人のことを「coconuts」、同様の黒人のことを「oreo」と、両方とも白い“身”を、茶色い殻や黒いクッキーで包んでいるという状態のもので言い表す、と書きましたが、同様の黄色人種のことをなんと呼ぶかを書き忘れました。その答えは、「banana」なんです。
 「このバナナ野郎!」なんて言われたら、「アメリカかぶれ」などというよりも、ずっと侮蔑されている感じがして、うーん、なんともいえず腹が立ちそうな気がしますよね。
日本にもいろいろなかたちでアメリカのカルチャーが入ってきています。アメリカのストリート・ギャングの真似をして「青ギャン」「赤ギャン」などと名乗っている若者グループもその一例でしょうか。(彼らはアメリカ人のストリート・ギャングになりたい、というより、スタイルだけを頂いた換骨奪胎型ですね、きっと。Bananaではなさそうです。)
 アメリカの、特に大都市部ではこのような若者の間のギャング・カルチャーが街にあふれています。街角のグラフィティー (graffiti) はその代表的なものです。グラフィティーはストリートの言葉でmind maps と呼ばれます。これは単なる落書きではなく、縄張りを示したり、敵対するグループへの威嚇のメッセージであったりするほかに、ギャング同士の間での「新聞」あるいは「掲示板」の役割を果たしています。ギャング・グラフィティーを読みこなすことができれば、その地域 ("hood"... 日本では「地元」の短縮形で「ジモ」なんて言ったりするらしいですが) で何が起こっているのかが一目瞭然というわけです。
 グラフィティーの担当であるギャング・メンバーのことを taggers または tag krews といい、彼らは自己流のクリエイティビティーを発揮して自分たちの存在を誇示し、名を広めるために tags または throw-ups と呼ばれるトレードマークのようなサインを描きます。
  独特のアルファベットの書体を使ったり、特定の文字を別の文字に置き換えたりすることでそのグループの特徴を表現しているので、どのギャング・グループから発信されたメッセージであるのかは、見る人が見ればすぐにわかります。そこには次の「襲撃」の予定が書かれていたり、時には「殺人予告(!)」が書かれていることも実際にあるといわれています。
 もうひとつ、グラフィティーに含まれている要素は、roll call と呼ばれる名簿のようなもので、誰がそのグループに属しているのかを読みとることができます。そこには、Joe Smith などというような普通の名前はもちろん書かれることはなく、monikerといわれるストリートでの呼び名 (street name) が使用されます。
 「青ギャン」などのもとともなっているように、ストリート・ギャングはそれぞれの色を持っています。グラフィティーは、基本的にはそのチーム・カラーで描かれるということになっているようですが、スプレー・ペイントが手に入りにくい (厳重に鎖などがかけられていて盗みにくい) 街においては、特に色にはこだわらず、手に入るスプレーならどの色でもOKなのだそうです。
 チーム・カラーのことは flag といい、その服を身につけていることを flying the flag といいますが、 彼らは特に服装にはこだわりを持っています。チーム・カラー以外に、重要なのはまっ白なスニーカーです。自分たちで毎日まっ白に洗い、ブリーチを念入りにかけるときもあります。スニーカーのストリートでの呼び名は、easy walkers 。視線を隠す真っ黒なサングラスは、locs です。
 このような地域では、日中に銃声が聞こえることも珍しくはなく、ヘリコプターが上空を飛び交うことなどは日常茶飯事。というわけで、ヘリコプターの別名は ghetto birdです。Ghetto star といえば、麻薬の売人(pusher)のことで、hood celebrity と同義語です。

忘れられないghettoという土壌

  Ghettoという言葉の由来は、16世紀にユダヤ人が強制的に住まわされていたベニスの近くの島の名前からで、社会的、経済的な理由からマイノリティーが固まって暮らすようになっている街の一部分、という意味です。しかし、ストリート・ギャングの彼らが自らの街を指してghettoというときは、本来の言葉の意味以上に特別なニュアンスが含まれることはいうまでもありません。彼らが口にするghettoあるいはhoodという言葉には、誇りにも似た強い仲間意識が感じられます。辞書には同義語として載っているslumという言葉を、彼らが決して使わないのも、その現れでしょう。あるいはそれを同時に排他的な匂い、開き直りととる人がいるかもしれません。
  ティーンなのにすでに売人をやっている「若手」のことを指してjuggler。ただし、これが動詞になってjuggleになると、「自分自身が麻薬中毒なので、その資金集めのために麻薬を売っている」行為を指します。Jugglerがjuggleしているとは限らないわけです。
 街の言葉がめまぐるしく変化しても、ずっと変わらないのは、「ghetto」という根底の土壌です。1960年代の Elvis Presley の曲で "In the ghetto" (この曲の舞台はシカゴでしたが) というのがありました。この曲をきっかけにして、Elvisはghettoの子供たちのためのチャリティー活動などに力を入れて行ったわけですが、2001年の現在でも、Elvisが歌ったのと変わらない風景がアメリカのghettoにはあるのです。Ghettoで生まれ、Ghettoで育った若者たちは、ghetto culture (B-boy culture) の中で生き、生涯ghettoを忘れることはありません。
 彼らの口調を借りて言うならば、まさに、
"Ya might take da nigga out da ghetto but ya can't take da ghetto out da nigga."
ということです。
 スターになったラッパーなどが、「金持ちになったからって、ghettoを忘れたりはしないぜ」なんてコメントしているのをよく聞きますが、きっとそれは真実なのだと思いますし、忘れたりするわけにはいかないしがらみが彼らの間にはあるのでしょう。
 West coast rapperの大御所 Ice Cubeのように、10代の後半までB-boy cultureとは無縁だったというという珍しい例もありますが、彼は例外的なケース (Ice Cubeの両親は、二人ともUCLAに勤めていて、まじめな家庭で育った人だというのは有名な話)。
 何冊スラング辞典をひっくり返しても、たぶんちゃんとは理解できそうもないストリート・ギャングのランゲージですが、彼らのひとつの特徴は、とても饒舌で、自分たちのカルチャーに深く関わっているということだといえます。音楽はもちろん、街のグラフィティーやファッションなど、幅広くチェックして彼らの「声」に耳を傾けることが、彼らのカルチャーを理解する第一歩なんですね。

 

(初出: イカロス出版刊 「通訳・翻訳ジャーナル」 2002年8月号)

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