No.7 気分はもうショウビズ通

By 佐々木南実

ほのぼのしててもkicker です

 ロサンゼルスのテレビ局KTLA5で生放送のニュースの同時通訳(スペイン語)を担当しているベテランの放送通訳の方とお会いする機会がありました。
 本誌7月号にも特集されているとおり、生放送のサイマルキャスティングは、文字通り後戻りのできないエキサイティングな現場です。毎日が緊張の連続なわけですが、そんな仕事の中でも、一番緊張するのは番組の最後に放送される動物や植物などを題材にした「ほのぼのネタ」の通訳の部分だと聞いて、ちょっと意外だなと驚きました。悲惨なニュースの多い番組の締めくくりとして、ちょっと面白い話題などを持ってくるわけですが、これには時間調整という役割もあるので、どのネタを放送するかはギリギリまで決まりません。さらに、動物や植物などの話題が多いので、珍しい鳥や動物、木や草花の名前が頻繁に出てくるというわけです。知らない名前が出てきたときにはどう対応するのか?「弾丸よりも早く辞書を引く」しかないのだそうです。
 さて、こんな「ほのぼのネタ」全般を指して kicker といいます。
 コマーシャルは blurb

"Ridley Scott started his career directing blurbs."


 もともとはラジオの世界の言葉ですが、番組と番組のあいだに流れるちょっとした「ジングル」 (エンタティメントテレビジョン E! チャンネルの "You're watching E!" とか、日本で言えば「日テレ式!」など) は、drop (複数形は drops) です。
 外タレがプロモーション来日してラジオ局などを訪問すると、「ジングル(の録音を)お願いします」なんて言われるわけですが、これは "They want you to do some drops." と訳すわけですね。
  放送作家(ニュースには当てはまりませんが) ・ドラマの脚本家の人は scribbler または scripterです。テレビ用の脚本を執筆することを scribe です。

"Neil Simon was a TV scribbler before becoming a playwright."
"Joe Eszterhaus was the scripter on the project."

米メジャー・テレビ局につけられたニックネーム

 いわゆる業界言葉というのでしょうか、いろいろなジャーゴンがたくさん飛び交うテレビの世界ですが、アメリカのメジャーなテレビ局には、それぞれ次のようなニックネームが付いています。

・Alphabet web -- the ABC television network
"The Alphabet web came in second in last week's Nielsens race."
(先週のニールセン調べによる視聴率ランキングでは、ABCが第二位だった。)

・Eye web -- the CBS television network
(これはもちろん、目の形をしたロゴからきたもの)
"Shirly is the star of the highly acclaimed series on the Eye web ."
(シャーリーはCBSの人気番組のスターだ。)


・Peacock web
-- the NBC television network 
(カラフルな孔雀の形のロゴからきたもの)
"Must-See TV has been a highly successful promotional campaign for the Peacock web."
(マストシーTVはNBCにとって大成功のプロモーション・キャンペーンだった。)

・Frog net -- the TBS television network 
"Kelly O'Brien was appointed as the new Marketing chief for the Frog net."
(ケリー・オブライアンがTBSの新しいマーケティングのトップに任命された。)

 日本でいうなら差し詰め「赤坂」「麹町」といったところでしょうか。

たとえば、最近の業界紙のニュースの見出しでこんなものがありました。

"Peacock ad pluck fries Frog"


  これは、NBCテレビが広告料の値下げを行ったため、その影響で他局の広告収入も下がってしまったと、TBS の重役が発言した、という内容の記事の見出しです。
 翻訳するとすれば「NBC広告料値下げでTBSにもとばっちり」という感じでしょうか。

ケーブルテレビ局のことは、総称して cabler です。

"Teen-targeting cabler plugs summer pics"


  これも業界紙のヘッドラインです。"Teen-targeting cabler" とは10代の若者をターゲットとしているケーブルテレビ局ということで、この場合は MTV を指していました。
 Plug というのは、宣伝、告知などのことで、MTVでは夏の劇場公開映画の宣伝を行うためのタイアップ番組を数多く製作・放映することになったという内容のニュースだったわけです。
 「MTV、夏の映画プロモに一役」という感じですね。

 番組宣伝や映画のプロモーションのためなどに、タレントがテレビのバラエティー番組などに出演して告知を行うことも "plug" と言います。(動詞・名詞 同じ)
"Kathy is here tonight to plug her new movie."
(「キャッシーが、彼女の新作映画のプロモーションのために今夜きてくれました。」)

 アメリカでは、今は Real TV または Real Life TV というジャンルのテレビ番組が大人気、大ブームです。これは、ドキュメンタリーものというか、芸能人ではない一般の人たちを、無人島に行かせてその模様を映してみたり、見知らぬ男女数人を同じアパートで共同生活させてみてその模様を映したり、「生」の人間ドラマのほうがフィクションよりも面白いというのでしょうか、大変高い視聴率を稼いでいます。
 視聴率は、上の例文にもでましたが rating , ratings , Neilsen ratings など。この他にHUTという言い方もあります。これは Homes Using Television という統計の数値の名称の略です。

"HUT levels are traditionally down during the summer."
(例年、夏の間は視聴率は下がるものだ。)

 今回は、テレビ関連の言葉を少し集めてみたわけですが、ショービジネスの都ハリウッドでは、さまざまな「芸能界言葉」に遭遇することになります。報道、映画、シアター、音楽と、それぞれのジャンルの個性的なランゲージが、ロサンゼルスという街の独特な活気を生み出している一因なのかもしれません。

(初出: イカロス出版刊 「通訳・翻訳ジャーナル」 2001年10月号)

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