By 佐々木南実
◆21世紀の"N.Y.
State of mind "
2001年9月11日以降、突然、アメリカ全国民の最愛の街となったニューヨーク。私の住むここサンディエゴでも、献血センターに長蛇の列ができ、各地で開催されるチャリティーイベントには何万人もの人が詰めかけ、ニューヨークの消防士たちは世界で一番勇敢なヒーローとして語られ、アメリカ中、話題はニューヨーク一色といった感じです。
必然的に私もニューヨークという街に思いをはせてみることになりました。大がかりなテレビのチャリティーイベントで、Billy
Joel が昔のヒット曲、 "New York State of Mind" という曲を歌っていましたが、アメリカ人が普段、
New York と聞いてまず最初に思い浮かべるのは、いったいどんな state of mind なんでしょうか?
NYの若者のライフシーンに詳しいトニーが、「これが21世紀のNew York
State of Mindだよ」と教えてくれたのは、ラッパーNasの "N.Y.State of Mind"
という曲。そこにあるのは麻薬、殺人、裏切り、そしてそんな現実から何とか抜け出そうとラップに没頭する若者の姿でした。
Nas はゲットーから出てきた典型的な成り上がりラッパーで、彼が育ったのは低所得者向けに国が用意する狭いアパート(housing
projects) [crib, shoebox, pj s, projects] が密集する地域。そんな地域では街角に麻薬の売人が立ち、それを取り締まる警察 [NARC
S, five-o s, knocko s, PoPo] と日々イタチごっこを繰り広げています。 "Yo,my
nigga" などと仲良く挨拶を交わし、brotherであることを確認し合う彼らですが、常に裏切り者(密告者)[snitch,
rat, triple-crosser, snake shit]には目を光らせ、誰も心から信頼できる者はいない、という毎日の暮らしです。
彼らの通信手段はポケベル (beeper) が主ですが、最近は携帯電話[celly]の普及率も上昇中です。電話番号は [digits] です。
マリファナは [buddah, blunts]、コカインは [basin
, nosecandy, white horse]、クラックは [rock] などの用語で呼び分けます。販売されるパッケージの重量によって、マリファナは20オンス入りが一般的なので [twenties] などと呼ばれたり、コカインは1オンス入りが [onion] と呼ばれたりもします。マリファナの常用者は [pipehead]。マリファナを吸うことは [blaze
up]、ハイになっていることは [blazed,lifted]です。
NYへの麻薬はフロリダからも流れ込んできますが、もうひとつの大きな「発送元」はテキサス州のヒューストンなので、ラップの中でこの地名が出てきたときには、麻薬の仕入元というようなことと考えて間違いないでしょう。麻薬を売ることは [slinging,
clocking]。
拳銃は [tecs, gats, heater] など。相手を撃った、という表現は
[back-flipped, capped, bucked ] など。
殺した、殺された、というのは[punched,
snuffed, got]。ラップのスラングではほとんどの場合、gotは副詞のgotと続けて
"He got got." というふうに使います。
◆ラップ音楽に関するスラングたち
ラップは今では確立された音楽のジャンルとなり、ゲットー出身以外の若者にも多く支持されているわけですが、それでもやはり、たとえば白人の中流家庭に育った若者がいくらラッパーに憧れたからといって、ラッパーとしてのキャリアを追求するためにNYのゲットーに移り住む、などということはあり得ないわけで、真のラップはそのラッパーの生まれ育った土壌を歌って初めてラップとなるのです
(黒人に憧れる白人は [wiggas] )。でも、形だけを模倣したものは多く、そんな作品は[biter,
動詞はbite]と呼ばれます。日本語に [パクリ、パクる] という表現がありますが、不思議と一致したスラングですね。
"That rapper is biting Tupac s style, yo."
"That nigga is biting Tommy s style. He went out
and bought the same threads and everything." (threads =
洋服)
ラップすることは[spit]。
"Give me the mic so I can spit."
特に良いラップをほめる言葉として使われるのが[flow, flowing]
"Method Man can really flow- listen to this verse!!"
"Yeah, I was flowing on the mic last night, for
real."
もうひとつのほめ言葉は [ill]。大変良い、という意味で色々な場面で使います。
"His rapping style is ill."
"It was ill when the Lakers won the NBA championship."
オリジナリティーあふれる独自のスタイルを[steez]。
"You know my steez, I d never buy that brand of
clothing."
レコーディング・スタジオは [lab]
ブレイクダンスは [popping]
LPレコードは [Wax/Vinyl]
"DJ Shadow has a huge collection
of wax."
"I only bought that album on vinyl."
ターンテーブルは[Tables/Wheels of Steel/Ones and Twos]
"DJ Krush is about to take over
on the tables."
"And tonight, we have DJ Redd Alert
on the wheels of steel!!"
"DJ Premier is on the ones and
twos for hip-hop group GangStarr."
成功したラッパーたちは地味に成功を喜ぶということは決してなく、派手に着飾る成金趣味なライフスタイルへと移行して行きます。
派手で粋がっている様子は[floss, flossing]
"Everyone tries to floss
at the club."
派手で高価な宝石などは [ice / shine]
"Puff Daddy rocks mad ice."
それを身につけていることを [Iced Out]
"That
iced out nigga got his cheddar selling drugs." (現金=
cheddar, knot, stash)
人口800万人中、35%が白人、27%がヒスパニック系、25%が黒人というニューヨーク。住民一人ひとりの胸の中に、まったく違うNew
Yorkが宿っているところも、この街の魅力のひとつに違いありません。
(初出: イカロス出版刊 「通訳・翻訳ジャーナル」 2001年12月号)
TOPへ
このページのメニューへ